痛みを麻痺させる声
明るくて、キャッチーで、思わず口ずさみたくなるような甘いメロディ。 その軽快なビートの隙間に、驚くほど生々しい絶望と孤独がそっと混ぜ込まれている。
彼の歌声がこれほどまでに愛おしく胸に刺さるのは、僕たちが普段、生きていくために無理やりフタをしている「弱さ」や「惨めさ」を、一切の説教くささなしでそのまま鳴らしてくれるからだ。彼が提示するのは、前を向くための安易な希望でもなければ、乗り越えるためのポジティブな言葉でもない。強がることも、無理に立ち上がることも僕たちに求めない。ただ「痛いよね」「シラフじゃ耐えられないよね」と、剥き出しの傷口をそっと撫でるように、悲しい旋律が淡々と流れていく。
彼が鳴らす音は、どこか夜の部屋の静寂に似ている。 どんなに派手な成功を手にし、煌びやかな世界に身を置こうとも、彼の内側にあった欠損や渇望が完全に埋まることはなかった。そして、その消えることのなかった深い傷こそが、今度は画面のこちら側にいる僕たちの、やり場のない夜の隙間を埋めるためのノイズになる。
彼が去ってしまった悲劇的な結末を美化したいわけじゃない。 ただ、彼が残したあの甘くて切ないメロディと、絞り出すような歌声が、今夜も世界のどこかの暗い部屋で、誰かの抱える孤独を静かに麻痺させている。その事実だけが、ただ愛おしくて、酷く切ない。
完璧に救われることなんてないのかもしれない。 けれど、この破滅的で美しい旋律が鳴っている間だけは、自分自身の醜さも、抱えきれない夜の重さも、ほんの少しだけ許されたような気がするのだ。